今年の映画鑑賞 短いまとめ。衝撃度ナンバーワンだった『蝿の王(1963 & 1990)』
今年もまあまあ、そこそこの数の映画を観ることができた。映画館で観たのはクリント・イーストウッド監督の『陪審員2番』一本のみ(日本では劇場公開が見送られたらしいが良作だった)。あとはもっぱら自宅鑑賞で、特にジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』、『アス』、『NOPE/ノープ』はどれも面白かった。
衝撃度ナンバーワンだったのは、『蝿の王』。原作はノーベル賞作家ウィリアム・ゴールディングの1954年出版の同名の小説 『Lord of the Flies』で(彼のデビュー作らしい)、映画はピーター・ブルック監督の1963年版と、ハリー・フック監督の1990年版がある。1990年版を旅先のホテルのテレビでたまたま目にし、帰宅後すぐに1963年版を観た。

無人島に漂着した規律正しい少年たちが徐々に豹変していく・・・その様は、本当に恐ろしい。『ロビンソン・クルーソー』とか『モンテ・クリスト伯』、『二年間の休暇(十五少年漂流記)』などを愛読する子ども時代を過ごした私にとって、『蝿の王』の展開はもう唖然とするというか、文字通りポカンとするしかなかった。
1963年版と1990年のリメイク版はほぼ同じあらすじだが、1963年版はモノクロで、各シーンの描かれ方のコントラストが強く印象づけられた。ストラヴィンスキーのバレエ音楽『春の祭典』を彷彿とさせる場面もあり、より見応えがある。冒頭から流れる「キーリエー、キリエ・エレイソーン」という少年たちの透明な歌声も、後半には何かもう黒魔術の呪文のように聞こえてきて怖い。調べてみたら、音楽担当はレイモンド・レッパード(1927 – 2019)というイギリスの指揮者・チェンバロ奏者とのこと。クラシック畑、なるほどだ。
テレビで放映されている映画は、アルゴリズムが ”あなたにおすすめ” してくれているわけではないし、そもそも私はテレビをつける習慣がないので出会うチャンスがほぼない。でも旅行中に娯楽の提供をテレビ任せにし、1990年版(こちらはカラー)をキャッチできたのは良かった。また映画の楽しみ方が一つ増えた気がする。
以下、1963年版『蝿の王』オープニング。全編もYouTubeに公開されている。
アメリカの真実を写す・フィリップ・モンゴメリー写真展『アメリカン・サイクル American Cycles』@ハンブルク現代美術館ダイヒトアハレン
ハンブルクの現代美術館ダイヒトアハレン(Deichtorhallen)を初めて訪れた。この美術館はハンブルク中央駅の線路沿い、運河に面した世界遺産のシュパイヒャーシュタット(倉庫街)に建つ。『Haus der Photographie (ハウス・オブ・フォトグラフィー)』という看板が車窓から見えるたびに気になっていた場所だが、やっと行くことができた。
倉庫風の会場ではユゲット・カランド Huguette Caland(1931-2019)というレバノン出身の画家の大規模な展示『A Life in a few lines』に加え、ワルターコレクションの写真展『Into the unseen』、それにオランダ出身の写真家サラ・ファン・ライSarah van Rij (*1990)の個展『Humming From The Shadows』が催されている。



下調べもロクにしないまま行ったが、どうやら『ハウス・オブ・フォトグラフィー』と名付けられた写真美術館本館は改装中のよう。仮設会場として『PHOXXI』と名付けられたスペースの中で、フィリップ・モンゴメリー Philip Montgomery (*1988)による『American Cycles』を最後に観ることができたが、これが素晴らしかった。

メキシコ系アメリカ人であるモンゴメリーの、モノクロ写真による現代のアメリカ ー トランプ、ジョージ・フロイド事件後のミネアポリス、ハリケーン・イルマの直撃 etc.ー は、ドキュメンタリー写真だけが持つ力で見る者に迫ってくる。演出のない、非常で非情なリアルだ。


この写真展を含め合計四つの展覧会を観たことになるが、展示を見る順番はひょっとしたら逆でも良かったかもしれない。いや、最後にこのガツンとくる感じは悪くない。どちらにしても彼の写真を知れたのは、収穫だった。
AIがフェイク画像をいくらでも作れてしまう時代。写真家が写す真実を受け取る準備を怠らないでいたい。
写真展の予告編:
ベルリンで味わう北欧のクリスマス。ルチア・クリスマスマーケット
クリスマスマーケットって、どこもかしこも混んでいるし、何かを買って食べようにも並ばないといけないし、寒いし、スリも多いし、テロの標的にもなりやすい(と毎年日本大使館からの注意喚起メールが届く)から、考えてみれば体力も気力もかなり使って疲れるところだ。
ドイツのクリスマスマーケットの規模は、ヨーロッパの他の国々に比べると桁違いに大きいが、移動式遊園地が組み立てられ始めたかと思うと数日で完成し、観覧車が吹きさらしの中高速で回転している。大音量のクリスマスソングが流れる中、トナカイのカチューシャやサンタの帽子をかぶった大人たちが、キラキラしながらみんな楽しそうにグリューワイン(スパイス入りホットワイン)を飲んでいる。なんとなく、毎年一度はこのパーティーに参加しておかないとなあ、という気にさせられてしまい、半ば自動的に赴いてしまうのは私だけではないはず。

最近のお気に入りはベルリン、パンコー地区のルチア・クリスマスマーケット。ここは『北欧風』をウリにしたマーケットで、Kulturbrauerei という元々はビール工場があった文化施設の敷地内で、割とこぢんまりと開かれている。フィンランドやスウェーデンといった国々の食べものや、Glögg グロッグというスカンジナビアのホットワインの屋台が並んでいる。

この日のお目当ては、ほうれん草のクネーデル=お団子(Spinatknödel)・バターソースとパルメザンチーズがけ。昨年寒風の中初めて食べて、感動するほど美味しかったのでリピートしに来た。まあ、2回目の今年は当然『既知の味』だったけれど、ここまでアツアツのお団子を食べにくる価値はあったと思う。家で作ろうと思ったら、パン屋さんで固くなった白パンを購入するところから始めなければならないし、けっこうな手間だ。屋台は昨年と同じ場所(スーパーマーケットREWEの裏手側)にあった。

この時期、日本からの観光客の方々もドイツのクリスマスマーケットをエンジョイされたいはず。円安で1ユーロ180円台になってしまった今、何もかもが割高に感じられてしまうだろうけれど、このシーズンならではの味覚と雰囲気をぜひ味わっていただきたい。
ちなみにほうれん草のお団子は、二つ入りで8ユーロ、グロッグは4,5ユーロ、デザートに食べた揚げたてサクサクのチュロスは8ユーロなり(食器類のデポジットで2ユーロ程度上乗せされるが返却すれば戻ってくる)。
