アメリカの真実を写す・フィリップ・モンゴメリー写真展『アメリカン・サイクル American Cycles』@ハンブルク現代美術館ダイヒトアハレン
ハンブルクの現代美術館ダイヒトアハレン(Deichtorhallen)を初めて訪れた。この美術館はハンブルク中央駅の線路沿い、運河に面した世界遺産のシュパイヒャーシュタット(倉庫街)に建つ。『Haus der Photographie (ハウス・オブ・フォトグラフィー)』という看板が車窓から見えるたびに気になっていた場所だが、やっと行くことができた。
倉庫風の会場ではユゲット・カランド Huguette Caland(1931-2019)というレバノン出身の画家の大規模な展示『A Life in a few lines』に加え、ワルターコレクションの写真展『Into the unseen』、それにオランダ出身の写真家サラ・ファン・ライSarah van Rij (*1990)の個展『Humming From The Shadows』が催されている。



下調べもロクにしないまま行ったが、どうやら『ハウス・オブ・フォトグラフィー』と名付けられた写真美術館本館は改装中のよう。仮設会場として『PHOXXI』と名付けられたスペースの中で、フィリップ・モンゴメリー Philip Montgomery (*1988)による『American Cycles』を最後に観ることができたが、これが素晴らしかった。

メキシコ系アメリカ人であるモンゴメリーの、モノクロ写真による現代のアメリカ ー トランプ、ジョージ・フロイド事件後のミネアポリス、ハリケーン・イルマの直撃 etc.ー は、ドキュメンタリー写真だけが持つ力で見る者に迫ってくる。演出のない、非常で非情なリアルだ。


この写真展を含め合計四つの展覧会を観たことになるが、展示を見る順番はひょっとしたら逆でも良かったかもしれない。いや、最後にこのガツンとくる感じは悪くない。どちらにしても彼の写真を知れたのは、収穫だった。
AIがフェイク画像をいくらでも作れてしまう時代。写真家が写す真実を受け取る準備を怠らないでいたい。
写真展の予告編:
ベルリンで味わう北欧のクリスマス。ルチア・クリスマスマーケット
クリスマスマーケットって、どこもかしこも混んでいるし、何かを買って食べようにも並ばないといけないし、寒いし、スリも多いし、テロの標的にもなりやすい(と毎年日本大使館からの注意喚起メールが届く)から、考えてみれば体力も気力もかなり使って疲れるところだ。
ドイツのクリスマスマーケットの規模は、ヨーロッパの他の国々に比べると桁違いに大きいが、移動式遊園地が組み立てられ始めたかと思うと数日で完成し、観覧車が吹きさらしの中高速で回転している。大音量のクリスマスソングが流れる中、トナカイのカチューシャやサンタの帽子をかぶった大人たちが、キラキラしながらみんな楽しそうにグリューワイン(スパイス入りホットワイン)を飲んでいる。なんとなく、毎年一度はこのパーティーに参加しておかないとなあ、という気にさせられてしまい、半ば自動的に赴いてしまうのは私だけではないはず。

最近のお気に入りはベルリン、パンコー地区のルチア・クリスマスマーケット。ここは『北欧風』をウリにしたマーケットで、Kulturbrauerei という元々はビール工場があった文化施設の敷地内で、割とこぢんまりと開かれている。フィンランドやスウェーデンといった国々の食べものや、Glögg グロッグというスカンジナビアのホットワインの屋台が並んでいる。

この日のお目当ては、ほうれん草のクネーデル=お団子(Spinatknödel)・バターソースとパルメザンチーズがけ。昨年寒風の中初めて食べて、感動するほど美味しかったのでリピートしに来た。まあ、2回目の今年は当然『既知の味』だったけれど、ここまでアツアツのお団子を食べにくる価値はあったと思う。家で作ろうと思ったら、パン屋さんで固くなった白パンを購入するところから始めなければならないし、けっこうな手間だ。屋台は昨年と同じ場所(スーパーマーケットREWEの裏手側)にあった。

この時期、日本からの観光客の方々もドイツのクリスマスマーケットをエンジョイされたいはず。円安で1ユーロ180円台になってしまった今、何もかもが割高に感じられてしまうだろうけれど、このシーズンならではの味覚と雰囲気をぜひ味わっていただきたい。
ちなみにほうれん草のお団子は、二つ入りで8ユーロ、グロッグは4,5ユーロ、デザートに食べた揚げたてサクサクのチュロスは8ユーロなり(食器類のデポジットで2ユーロ程度上乗せされるが返却すれば戻ってくる)。
思いやりを再び偉大にーMake Empathy Great Again (KARUNA Kompass)
ベルリンのSバーンでストリートマガジンを、ホームレスの方から購入した。いや、購入するつもりはなかったが、思いがけずいただいた、というのが正しい。
いつもよりどこかリラックスした気分だったその日は、今冬初めての雪が降り、一足早くクリスマスムードになっていたからか、同じ駅から乗車し、ストリートマガジンの車内販売を始めたホームレスのおじさんが話す内容が、スッと心に入ってきた。
1ユーロしかなかったので、2ユーロのマガジンには足らず、寄付だけするつもりで渡すとおじさんは、私に雑誌を手渡してくれた。こちらがお礼を言う番だった。
すぐに開いて読み始めると、カラフルな紙面が目に飛び込んできて、眩しいくらい。テーマは『Make Empathy Great Again – 思いやりを再び偉大に』。なかなか、かなり良いじゃない?

しばらくすると別の車両に行っていたおじさんが戻ってきて、「ね、読むのに良いでしょう?」と私に話しかけ、また向こうの方へ行って席を取り、次の駅で降りて行った。私はもう一度、お礼を言った。
KARUNA EGによって発行されているKARUNA Kompassというこのストリートマガジンは、ホームレスの人々が販売し、売上の100パーセントが彼らの収入になるそうだ。同様のマガジンは他にもあり、ベルリンや東京で購入したことがあるが、100パーセントというのは珍しい。
寄付を必要としている人たちはたくさんいて、駅構内や車内で見かけない日はないくらいだから、毎回はさすがに無理だけれども、ふとした時に、こういう形で支援できるのはありがたいことだと思う。
ベルリン・タイパークでストリートフードとタイカルチャーを味わい尽くす
ベルリンにはタイがある。鯛ではない。タイだ。
その名もタイパーク。タイ公園という名のストリートフードマーケットで、本格的なタイフードとタイカルチャーを体験できる、ある種のテーマパークである。

私がこの、タイ本国の屋台が立ち並ぶ風景に限りなく近い(タイには行ったことがないがそう確信する)、そして異国への旅気分が味わえるのに言葉が通じて楽ちんなドイツ最大級のストリートフードマーケットの存在を知ったのは、かれこれ5年以上前。訪れるたびにその混沌とした雰囲気と、地べたに座って卓上コンロなどで調理をする人々の無秩序感、色鮮やかな屋台とタイフードの数々に圧倒されてきたが、コロナ渦を経た最近のタイパークは、少し様相を変えたもよう。

実はこのタイパーク、4月から10月にかけて毎週末に開催される、地元民や観光客に大人気なマーケットだが、これまではかなりグレー、いわゆる『闇市』の側面を持っていた感がある。要するに『無許可営業』がまかり通っていて、一時は閉鎖されるという噂もあったくらいだ。それがパンデミックを機に(?)様変わり、屋台も整然と立ち並び、地べたで揚げ物をする人の姿は皆無というクリーンさ。さらに各店舗には店番号が付けられ、責任者の名前まで記載されている。そして、以前のように使い捨ての食器でサービスするのではなく、デポジット制の再利用可能な食器で提供している。これは驚いた。

営業許可のおりた屋台だけが出店できるようになったと考えれば、以前よりも規模がいくらか縮小されたような気がするのも納得だ。環境に配慮するという取り組みも、タイパークの存続には必須だったのかもしれない。

パッタイが食べたくて並んでみたが、前の男性が受け取っていたものが美味しそうだったので、すかさず「それ何ですか」と訊き中華パンケーキなるものを注文。女性が手際良く、予め用意されていたパンケーキを少量の油で焼いてくれ、私は取り分けように持ってきていたピクニック用のプラスチック皿を差し出す。マイ皿を持っていき、6ユーロ以上注文すると、50セントを割り引いてくれるというから良心的だ。ちなみに店側の食器を使う場合は2ユーロ上乗せだが、デポジットなので食器を返却すれば返金される。

私のマイ皿はどうやら小さすぎたらしい。店の女性が「気をつけてね」と言って熱々を半分に折って載せてくださったが、それでもはみ出ている。しかしこの刻んだキャベツがたっぷり入った中華パンケーキ、想像以上の美味しさだった。もはやタイフードではない気がするけども、、

タイ名物パッタイも運ばれてきたが、こちらもマイ皿が小さく、お店の人にこれ以上載せきれないと言われてしまったらしい。次回は深く大きなマイ皿を持参しようと心に誓う。

屋台の合間には飲用水タンクも設置されていて、マイボトルに汲み放題だ。至れり尽せりなサービス。以前は見かけなかったと思う。

お昼時より少し前に行ったおかげで、並ぶ時間もそれほどなく、ゆっくりできたが、午後はどこの屋台も長蛇の列だった。なお、テーブルや椅子は設置されていないため、ピクニック用のシートを芝生の上に広げ、遠足気分で食べるのがこのマーケットのスタイルだ。

デザートも忘れずゲット。さつまいもボールや揚げバナナは定番だが、今回初めて食べたココナッツミルクで甘く似た餅米にマンゴーを添えたもの(写真右端)がなかなか美味しかった。
大量の虫が載ったお皿を運んでいる人を見かけたが、あれはスナックなのだろうか。

ピクニックする人たちで所狭しとなる公園。
置き引きもいるらしいので貴重品から目を離さないよう注意すべし。

タイの人々だろうか。一心不乱にゲームに興じる男女の姿もあちこちで見られる。中にはお金をかけている人たちも。また、寝転んでプロのマッサージ師から本格的なタイマッサージを施術されている人も何人もいて、本当にのびのびとしたこの空間は、基本的には以前と変わっていないことに少しほっとした。

タイパークは、ベルリンのヴィルマースドルフ地区、プロイセンパークという公園で4月から10月までの季節限定(金〜日曜日のみ)で開かれており、入場は無料だ(タイパークはこのフードマーケットの名前であって、公園の名前ではない)。この公園横のFehrbelliner Platzでは週末にアンティークな蚤の市も開かれているので、ランチの前後に行けば楽しい時間が過ごせる。この夏、もう一度くらい行けたら良いなと思う。
タイパークはここです。
Thaipark (Preußenpark)
Brandenburgische Straße, 10707 Berlin
https://thaipark.de/
映画『ロストックの長い夜』に見る難民襲撃事件とピアノを弾く青年について
30年前の今日、ロストックで暴動が起きた。1992年の8月22日から26日にかけ、人種主義を掲げるネオナチによる外国人排斥運動が過激化し、ロストックの郊外・リヒテンハーゲン地区でロマやヴェトナム人たちが襲撃された大事件で、警察もお手上げ状態になり、収束するのに4日もかかったという(本日のtagesschau記事)。
ロストックは私が留学していた北ドイツの湾岸都市だ。当時(2007〜2012年)は何事もなく、落ち着いた留学生活ができていたが、ロストックで勉強していると言うと「旧東だけど大丈夫?」と心配する人はいたし、恩師には(冗談まじりではあったが)「他に誰もいない電車でネオナチっぽい外見の人物と乗り合わせたら車両を移動しろ」と何度も言われていたので、こんなに平和な町だけど以前は怖いところだったのかしらん、これがいわゆる旧東ドイツに住むことなのかなあ、なんて無知な私は漠然と思っていた。事件について小耳に挟むも、留学当初は今のような気軽さで過去の情報にアクセスすることができなかったし、恐ろしいことがあったらしいとは認識するも、その背景や詳細については何も知らないままだった。この映画を観るまでは。以下・予告編です。
映画『ロストックの長い夜(原題:Wir sind jung. Wir sind stark.)』は、この実際に起きた難民襲撃事件がベースになっている。登場人物(ドイツ人の青年グループ、ヴェトナム人労働者など)は架空のキャラクターだが、映画の後半、亡命申請者たちが住む収容施設に火炎瓶が投げ込まれて火災が起こる中、野次馬たちが拍手喝采するようなシーンなどは決して脚色されたものではなく、本当にあったことである。
とにかく名作なので、映画の内容は本編を観ていただくこととして…
ディティールについて少し。
主人公のシュテファンがつるんでいる仲間の一人に、ピアノを弾く若者がいるのだ。仲間と言ってもクレイジーな輩ばかりで、ネオナチ思想の人たちだ。そんなどうしようもないグループの中でも一番いっちゃっているロビーが、シュテファンの家を訪ねるのだが、誰もいない居間にあったアップライトピアノに引き寄せられるように座り、勝手に演奏するシーンがあるのである。ぽろりぽろりとバッハを奏でるロビー。そしてピアノの音を訝しく思ったシュテファンの父親(政治家)が二階から降りてきて、招かれざる客である息子の不良仲間と対面する。とても印象的なシーンだが、ここで彼にピアノを弾かせた意味とは?と考えるとなんだか悲しくなるのだ。

最後にこの映画を観たのはずいぶん前で、曲目が定かではない。バッハの何の作品だったかな。また近いうちに観ようと思う。
念のため追記するが、ロストック在住中、外国人だから危険な目に遭ったということは皆無だった。「ひょっとしたらアブナイ人かも?」というようないでたちの人物を見かけたり、目の前で酔っ払いに自転車を盗まれそうになったことはあるが、いたって平和で穏やかな町だったし、現在もそうである。留学当初は辺鄙な場所にあった外国人登録センターも市庁舎前に移り、多くの外国人にとって憂鬱なビザ取得のための手続きも、気持ちやアクセス面で少し楽になったのではないかと思う。
ただ私がこんな風に感じるのは、住んでいたのが市の中心部だったせいもあるかもしれない。襲撃の舞台となったリヒテンハーゲン地区の高層住宅周辺には一度だけ行ったことがあるが、雰囲気は明らかに中心部のそれとは異なっていた。大きなヒマワリが描かれたその高層住宅は、バルト海沿岸のリゾート地・ヴァルネミュンデへ向かうSバーンの車窓からも見ることができ、その象徴的な黄色い花が青空の間に覗くたび、事件について思いを巡らしたものである。
こちらの記事も参考にさせていただきました。
●ドイツニュースダイジェスト 『ロストックの警鐘』
Image © Wir sind jung. Wir sind stark.
