菜食について考える・『野菜好き』としてドイツに生きるピアニストのひとりごと
私はここ数年野菜中心の食生活を送っている。なにか一念発起して菜食主義を目指しているわけではないが「別にお肉は毎日食べなくても良いか」と野菜や豆類、魚などを積極的に調理するようにしていたら、それが美味しくて体の調子も良いので自然に摂取量が減っていった感じだ。自宅ではほぼ菜食だが、食事に招かれたり外食する際には肉料理をいただくことに躊躇はしないし、旅先で貴重なジビエに舌鼓を打つ機会もある。こういう『たまに肉や魚を食べる』人をセミ・ベジタリアン、またはフレキシタリアンとカテゴライズするそうだが、自分は言うならばただの『野菜好き』である。
ピュア・ベジタリアンのひとたちとの付き合いが始まったのはドイツに来て数年経った頃だった。当時の私にとって『ベジタリアン』は未知の領域で、そんなひとが実際にいるのか、と物珍しい目で見ていたと思う。ましてや『ヴィーガン』の存在など知る由もなかった。彼らが作ってくれたダルカレー(インドの豆のカレー)や、オーガニックのかぼちゃを皮付きのままスライスしてオーブンで焼いただけのシンプルな料理は驚くほど美味しくて、野菜だけでこんなに食事を楽しめるものなのかと衝撃を受けた。ベジタリアンになったきっかけは?と尋ねたところ、両親が菜食だったので自然とそうなったという人もいれば、思想的な理由を挙げる人もいた。
思えば食卓に肉が並ぶのは当たり前だった。家でも学校でも肉料理はほぼ毎日食べていたように思う。18歳で上京してひとり暮らしを始めてからも同じような食生活を続け、実技試験やリサイタルの前には縁起を担いで必ずと言って良いほどカツを食べていた。ベジタリアンのひとたちに出会う20代後半まで野菜中心の食事が可能だということに気付きもしなかったが、習慣に変化が訪れるとそれが新しい『当たり前』になり、難しいことを考えるまでもなく、体が欲するものとして多くの野菜を食べるようになって現在に至る。
生まれた時から菜食で育ってきた人に肉をすすめても受け付けられないのと同様に、肉が大好きで毎日欠かさず食べたいという人に『ミートフリー・マンデー』を一緒に始めようと誘っても難しいだろう。習慣に変化が訪れるタイミングというのは、何かしらのきっかけで本人が自ら選択を行う時だと思うが、劇的なターニングポイントがあった訳ではないのに私の食生活が徐々に変化したのは、身近にいた人たちの影響が大きい。こんな『野菜好き』として生きる可能性が生まれたのも、ベジタリアン人口の多いドイツ暮らしならではかもしれない。
世界初・独フライブルク音大ピアノ科、自動演奏ピアノを駆使し遠隔リアルタイム入試を行う
一つ前の記事でドイツの音大の一部がコロナ危機に伴いオンライン入試(録画での実技審査)を行うと書いた(ドイツの音楽大学 2020年夏ゼメスター実施予定の入学試験を延期・オンライン審査に変更、または中止)。しかし、このビデオ審査という比較的「想定内」の方法の斜め上を行くヒットを飛ばしたのがフライブルク音大。なんと自動演奏ピアノを大学構内に設置し、はるか海の向こうにいる中国・日本の受験生たちの演奏を遠隔操作で再生し審査したというのだ。
以下、2020年6月10日付の Badische Zeitung 紙より抜粋 :
フライブルクの音楽大学で、初めてディスクラヴィアでの入学試験が行われた。日本と中国からの志願者はピアノ科の試験に臨んだが、特異点は受験者がアジアに滞在できることだった。審査委員会はフライブルクで特別なグランドピアノ(遠隔操作され上海と東京にいる受験生の演奏が再生できる)の前に座っていた。よって受験生は(アジアにいながらにして)フライブルクでリアルタイムで演奏することができ、フライブルクの現地受験生と同じチャンスを得ることができた。
これはヤマハのディスクラヴィア(Disklavier)という自動演奏ピアノが可能にしたもので、このテクノロジーを搭載したピアノはピアニストの演奏を非常に正確に録音し、また再生することができる。キーの動きが保存されたデータはインターネット経由で送信されるので、ピアニストが一台のディスクラヴィアを演奏し、別の場所で数ミリ秒の遅延で別のディスクラヴィアを制御する(再生させる)ことが可能。
フライブルク音楽大学はこのテクノロジーを15年間使用しており、教育と研究におけるディスクラヴィアの使用において世界をリードする機関の1つだ。「国際的に有名な大学として、EU圏外からの応募者が多数いるが、すべてがフライブルクに来ることはできないし、希望するわけでもない。現地での試験、ビデオ録画による試験、ビデオ会議、およびピアニストの場合はディスクラビアによる試験という選択肢を用意した」とピアノ科教授でこの研究と入試の責任者であるクリストフ・シシュカ氏は述べている。
この遠隔試験のために上海と東京に設置された入試会場はヤマハがサポートし、映像の送信も同時に行われたとのこと。シシュカ教授のインタビュー、ならびに中国人受験生の演奏(ショパンのエチュード作品10-1)はSWR2上で聞ける。受験生たちはこの機会にとても満足していたとのこと。
フライブルク音大では、1904年に再生ピアノを製造したWelte-Mignon社のもとで記録された過去の大ピアニストたちの演奏(ピアノロール)をディスクラヴィアに転送・再生し、レッスンに活用しているらしい。なんと新しい・・・いや、古いのか(?)。なんとなく美空ひばりのAIロボットを思い出さないではないが、一個人としてとても興味のある試みである。
なお、コロナ収束後もディスクラビアによる入学試験がフライブルク音楽大学で引き続き選択肢となるかどうかは未定とのこと。次回の入試時期(2021年1月)には普通に受験できる環境が戻っていてほしいものだ。
ドイツの音楽大学 2020年夏ゼメスター実施予定の入学試験を延期・オンライン審査に変更、または中止
コロナ危機に伴い、ドイツの音楽大学では2020年夏ゼメスター期間中(通常は6月)に実施予定の入学試験の実施方法・時期が変更された。ざっと確認したところ、
●7月〜9月に延期 ミュンヘン音大、ハンブルク音大、マインツ音大、ミュンスター音大
●10月に延期・一部オンライン審査 ハノーファー音大
●オンライン審査のみで実施 ベルリン芸大、ロストック音大、ブレーメン芸大、ヴュルツブルク音大
●オンライン一次審査のあと二次審査として通常の試験 ベルリン・ハンス・アイスラー音大、ドレスデン音大、フランクフルト音大、カールスルーエ音大、トロッシンゲン音大
…等々(リンク先は各大学の入試情報ページ)。
何らかの形で実施する大学が大半を占めているが、各大学で対応にばらつきがあり、まちまちな印象。デトモルト音大などはどうやら入試自体を中止し代替案はない模様。明確な情報が公開されていない大学もあるので全てをチェックすることはできなかったが、受験生には大学側から個別に変更の連絡が入っていることだろう。ちなみにオンライン審査とは、受験生があらかじめ収録した演奏の録画(ビデオ)を提出し、それを試験官が審査するというもの。
コロナ・パンデミック下の現在、できるものは全てインターネット上でせざるを得ないとはいえ、音楽・芸術分野というのは『実技』が物を言う世界。ワルシャワのショパン国際ピアノコンクールなど、世界的なコンクールが開催延期を決める中、入試を完全デジタル化した音大が(一部ではあるが)存在することは驚きだ。筆者の勤務先であるロストック音大もその一つだが、最先端を走る大学だと喜んで良いのかは微妙なところである。受験生、特に日本やその他諸国から留学を希望する人たちにとって、大きな不安要素ではないだろうか。
そもそも海外留学に向けて準備をすること、大学で通常形態の授業を受けること自体が困難ないま。異国の地ですでに勉強を始めている人たち、またはこれからチャレンジしようとする人たちにはどうかへこたれず頑張ってほしい。何かしら役立つ情報などあればここでお知らせしたいと思う。
ピアニストがコンサート本番前に飲むお茶とは?「カモミールティー」を手作りする
キク科の花・カモミールには抗ストレス、抗不安、安眠といった効果があると知って以来、カモミールティーがコンサートの本番前に飲むお茶の定番になった。温かい飲みものを口にすることで得る感覚は、出番を控えて緊張マックスの身体と精神を幾分かほぐしてくれるし、このハーブ独特の香りがなんとも言えず良い。
夏場は (特にここ数年は真夏の日本でツアーを行っているため)水だけで済ますことも多いが、秋冬は魔法瓶に淹れた温かいカモミールティーをコンサート会場に必ず持参する。ピアニストのちょっとした精神安定剤である。
そんなカモミールティー。これまでティーバッグで購入していたのだが、サイクリングに出かけた先の原っぱで大量に生えた野生のカモミールを収穫することができたので、手作りにトライしてみることにした。


手作り、と言ってもなんのことはない。花を洗って乾かすだけである。ただしアブラムシがついていないかだけは注意すべし。洗ったあと束にして窓辺に吊るしてみると、どこか違う国の台所に来たみたい。


このカモミール、どうやら乾かす前にお茶に使える花の部分だけ切って、ザルなどに入れて置いておけばよかったようだ。茎を残した状態で逆さに吊るしていたことで、黄色い花粉が落ちてきて掃除する羽目になってしまった。そして乾燥した花の部分だけ切るのがけっこう手間がかかる。最初はいそいそと一本ずつハサミで丁寧に切り取っていたのだが、15分も経つとしびれをきらし束のまま茎と一緒にザク切りにすることに。
というわけで約30分の手作業の末、出来上がったカモミールティーの茶葉。

ガラスのカップに注ぐと、色が映えてとても綺麗。お味のほうもなかなか。なんでも手作りすると美味しいね。

乾燥した花の状態のカモミールティーは、BIOショップなどで手に入る。ティーバッグは普通のスーパーでもお手頃価格(1ユーロ〜)で売られているので、ドイツ土産にも良いかもしれない。
