コロナ時代の教育現場

ドイツの音楽大学 2020-2021年冬ゼメスター開始・コロナ禍でのオンラインピアノレッスン

2020年10月初旬、冬学期(冬ゼメスター)が始まるとほぼ同時にベルリンがリスク地域に認定された。在住者、旅行者共に他州・他国への移動の際に検疫が義務付けられることになり、音大からも“ホットスポット”に住むひとは登校しないようにとお達しが出たため、またしても通勤できなくなってしまった。

ロストック音大ではこの冬学期、隔週で対面レッスンとオンラインレッスンを交互に行うことが決まっていた。そのため私のクラス(ピアノ)では、オンラインの週はこれまでのように通話アプリ等を使用したリアルタイムのレッスンではなく、より良い音質と成果が期待できる演奏&レッスン動画を生徒と交換する方法で進めることにしていた。対面式と動画交換式を組み合わせることによって、緩急がついた効果的なレッスンができると考えたからだ。そしていよいよ対面レッスンが再開できると期待していた矢先、出鼻を挫かれてしまった。

仕方がないので対面レッスンをする予定だった週はリアルタイム遠隔レッスンをすることにし、動画交換式と週替わりで行うことにした。今学期は新入生を何人か受け持つことになったので一通りメールや電話やらで説明したところ、みんな機械慣れしているようで、「あ、Zoomですね、わかりましたー」といった感じでサクサク話が進み、ありがたかった。新入生との初対面がラップトップの画面上というのは妙な気がしたが、先生が「気後れ」してちゃいかんだろと、スイッチを入れるようにつとめた。

レッスン動画作成に関しては以前から興味はあったので、今学期チャレンジできることになったのは密かに嬉しかった。しかし、本来は留守番電話やボイスメッセージでのやりとりが苦手な自分。見えない相手に向かって喋り、お手本を弾いてみせたりして一体どれだけ間が持つのだろうかと心配はしていた。しかしここでもスイッチを入れるしかない。そしていざ録画ボタンを押してみると、どこから出てきたのか、ひたすら喋り演奏する自分が登場し、そこそこのボリュームのレッスン動画ができあがることになった。「普通にレッスンするより疲れたけど、けっこう楽しい」というのが初回の動画作成を終えた私の感想である。

このオンラインのみでのピアノレッスンはしばらく続きそうだ。というのも、ドイツでは10月28日に一日の新規感染者数が過去最高を記録したため(前日比+14.964人)、2020年11月2日からより厳しい接触制限、旅行制限に加え、飲食店、劇場やオペラハウスを含むレジャー・余暇施設が閉鎖されることが発表されたからだ。ただし、学校や幼稚園は開き続けるということ。これ以上学びの機会が失われないよう、必死に対策を練っているドイツ政府の姿勢を感じる。さしあたり11月末まで事実上の『部分的なロックダウン』が始まるが、オンラインで仕事ができることに感謝するとともに、引き続き気をつけて過ごしたい。

世界初・独フライブルク音大ピアノ科、自動演奏ピアノを駆使し遠隔リアルタイム入試を行う

一つ前の記事でドイツの音大の一部がコロナ危機に伴いオンライン入試(録画での実技審査)を行うと書いた(ドイツの音楽大学 2020年夏ゼメスター実施予定の入学試験を延期・オンライン審査に変更、または中止)。しかし、このビデオ審査という比較的「想定内」の方法の斜め上を行くヒットを飛ばしたのがフライブルク音大。なんと自動演奏ピアノを大学構内に設置し、はるか海の向こうにいる中国・日本の受験生たちの演奏を遠隔操作で再生し審査したというのだ。


以下、2020年6月10日付の Badische Zeitung 紙より抜粋 :


フライブルクの音楽大学で、初めてディスクラヴィアでの入学試験が行われた。日本と中国からの志願者はピアノ科の試験に臨んだが、特異点は受験者がアジアに滞在できることだった。審査委員会はフライブルクで特別なグランドピアノ(遠隔操作され上海と東京にいる受験生の演奏が再生できる)の前に座っていた。よって受験生は(アジアにいながらにして)フライブルクでリアルタイムで演奏することができ、フライブルクの現地受験生と同じチャンスを得ることができた。


これはヤマハのディスクラヴィア(Disklavier)という自動演奏ピアノが可能にしたもので、このテクノロジーを搭載したピアノはピアニストの演奏を非常に正確に録音し、また再生することができる。キーの動きが保存されたデータはインターネット経由で送信されるので、ピアニストが一台のディスクラヴィアを演奏し、別の場所で数ミリ秒の遅延で別のディスクラヴィアを制御する(再生させる)ことが可能。


フライブルク音楽大学はこのテクノロジーを15年間使用しており、教育と研究におけるディスクラヴィアの使用において世界をリードする機関の1つだ。「国際的に有名な大学として、EU圏外からの応募者が多数いるが、すべてがフライブルクに来ることはできないし、希望するわけでもない。現地での試験、ビデオ録画による試験、ビデオ会議、およびピアニストの場合はディスクラビアによる試験という選択肢を用意した」とピアノ科教授でこの研究と入試の責任者であるクリストフ・シシュカ氏は述べている。


この遠隔試験のために上海と東京に設置された入試会場はヤマハがサポートし、映像の送信も同時に行われたとのこと。シシュカ教授のインタビュー、ならびに中国人受験生の演奏(ショパンのエチュード作品10-1)はSWR2上で聞ける。受験生たちはこの機会にとても満足していたとのこと。


フライブルク音大では、1904年に再生ピアノを製造したWelte-Mignon社のもとで記録された過去の大ピアニストたちの演奏(ピアノロール)をディスクラヴィアに転送・再生し、レッスンに活用しているらしい。なんと新しい・・・いや、古いのか(?)。なんとなく美空ひばりのAIロボットを思い出さないではないが、一個人としてとても興味のある試みである。


なお、コロナ収束後もディスクラビアによる入学試験がフライブルク音楽大学で引き続き選択肢となるかどうかは未定とのこと。次回の入試時期(2021年1月)には普通に受験できる環境が戻っていてほしいものだ。

ドイツの音楽大学 2020年夏ゼメスター実施予定の入学試験を延期・オンライン審査に変更、または中止

コロナ危機に伴い、ドイツの音楽大学では2020年夏ゼメスター期間中(通常は6月)に実施予定の入学試験の実施方法・時期が変更された。ざっと確認したところ、



●7月〜9月に延期 ミュンヘン音大ハンブルク音大マインツ音大ミュンスター音大
●10月に延期・一部オンライン審査 ハノーファー音大
●オンライン審査のみで実施 ベルリン芸大ロストック音大ブレーメン芸大ヴュルツブルク音大
●オンライン一次審査のあと二次審査として通常の試験 ベルリン・ハンス・アイスラー音大ドレスデン音大フランクフルト音大カールスルーエ音大トロッシンゲン音大
…等々(リンク先は各大学の入試情報ページ)。


何らかの形で実施する大学が大半を占めているが、各大学で対応にばらつきがあり、まちまちな印象。デトモルト音大などはどうやら入試自体を中止し代替案はない模様。明確な情報が公開されていない大学もあるので全てをチェックすることはできなかったが、受験生には大学側から個別に変更の連絡が入っていることだろう。ちなみにオンライン審査とは、受験生があらかじめ収録した演奏の録画(ビデオ)を提出し、それを試験官が審査するというもの。

 
コロナ・パンデミック下の現在、できるものは全てインターネット上でせざるを得ないとはいえ、音楽・芸術分野というのは『実技』が物を言う世界。ワルシャワのショパン国際ピアノコンクールなど、世界的なコンクールが開催延期を決める中、入試を完全デジタル化した音大が(一部ではあるが)存在することは驚きだ。筆者の勤務先であるロストック音大もその一つだが、最先端を走る大学だと喜んで良いのかは微妙なところである。受験生、特に日本やその他諸国から留学を希望する人たちにとって、大きな不安要素ではないだろうか。


そもそも海外留学に向けて準備をすること、大学で通常形態の授業を受けること自体が困難ないま。異国の地ですでに勉強を始めている人たち、またはこれからチャレンジしようとする人たちにはどうかへこたれず頑張ってほしい。何かしら役立つ情報などあればここでお知らせしたいと思う。

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